夏の風物詩と言えば、花火、海、そしてコンビニである事に疑いの余地はありません。近頃の陽気に誘われて、自分が焼きハマグリなんじゃないかとそのDNAを疑いかける程の開放感に包まれた僕は、人にはあるまじきレベルでぱかぱかしながら、立ち読みしたり、お弁当を温めて貰ったりする方のやり方で夏を満喫していた訳ですが、ふと思い返してみれば、僕、一年中同じ事してた。となれば、コンビニが夏の風物詩である以上、僕は一年を通して夏を満喫していた事に他ならず、形式上は兎も角として、事実上、ここが常夏の街である事が明らかとなったのです。
そんなハワイ在住の僕でして、今日もまた夏を満喫するため、どう頑張っても伊豆ぐらいにしか見えないこの街並みを無理矢理にワイキキだと思い込み、その無理が祟ってか危うく何かが飛び出そうになったりしながらも何とかコンビニへと辿り着き、今日は思い切ってお弁当を温めて貰わない方のやり方でまたしても楽しい夏を謳歌しておった訳ですが、あれ、これひょっとして楽しくないんじゃね?と危うく何かに飛び出しそうになったりしながらも、大丈夫。楽しい。これ凄い楽しい。とうわ言の様に唱え続けるサバイバル術を駆使しながら、誤魔化し誤魔化し家へと帰り着く事に成功致しました。生きてまたこの場所に戻ってくる事が出来た幸運に、お弁当を電子レンジに入れてツマミを3に合わせるタイプの儀礼に則り、神への感謝を表すると共に、世界平和と全人類への愛を祈 チン! 頂きます! その時になってようやく僕は気付いたのです。割り箸が、入っていない。あのコンビニ店員が、お弁当に箸を入れない事でプロポーズをする部族の出身者でもない限り、これは「箸つけんの忘れてた(テヘ)」という日本犯罪史上稀に見る残忍な犯行に相違なく、そして僕は、人が初対面の人間にプロポーズする確率を、知っている。検察側はあのボケに死刑を求刑します!
まあ、それは勝手に死んでてくれれば良いんですけど、しかしあっつい。何この暑さ。おじいちゃんを日向に放置したら1時間と経たずにクフ王とかツタンカーメンとかの仲間入りを果たす事は明らかであり、このままではハワイはエジプトになってしまうのです。もし僕らのワイキキがルクソールになってしまったとしたら。ルクソールに対するイメージが貧困すぎて、ラスベガスの高級ホテルだけが頭の中で明滅を繰り返し、だったら別にルクソールでも良いんじゃね的な結論が先頭に躍り出た所ではありますが、それは兎も角、いい加減に暑過ぎます。おや? 暑い? 我、天啓を得たり。今の季節は夏だったのです。僕は、もう少しでレジの彼女を冤罪で死刑にするところでした。夏はいつだって扇情的で、人を大胆に、そしてハマグリをぱかぱかにする季節であります。ならば、初対面の人間にプロポーズする事だって、あって然るべき。なかろう筈が。奇跡的な事に、彼女はお弁当に箸を入れない事でプロポーズをする部族の出身者だったのです。
この先の人生を考えるに、僕が誰かと結婚する確率と、空から突然鉄球が降ってきて絶命する確率では、後者が優勢を示す事は如何なる理論を用いても覆す事は出来ず、このプロポーズを受けなければ、僕は再び婚姻の機会を得る前に、鉄球に頭を撃ち抜かれて死体写真愛好家の慰みものとなる訳ですが、しかしそれでも、初対面の人間からのプロポーズを受け入れても良い物か。そもそもどんな顔だったのか思い出そうにも、逆さにしたスリッパしか浮かんで参りませんで、思い出してはならない何かがそこには存在するのでないかと訝しむ事しきりではございますが、ここは一つ、スリッパとの新婚生活をシミュレートし、このプロポーズを受け入れるべきか否かを判断するのが最適との結論に達しました。
仕事を終え、家に帰り、玄関を開けるとスリッパがいる。「お風呂にする? ご飯にする? それともワ、タ、シ(を履く)?」まあ、当然履く。飯食う。スリッパ脱ぐ。風呂入る。スリッパ履く。インターネットする。スリッパ脱ぐ。寝る。OK。今の生活と何ら変わりがありません。そして、今の生活は、とてもじゃないが、楽しくない。斯様な生活がこの先ずっと続こうものなら、僕の心は早晩に腐臭を放ち、顔は心を映す鏡です。唯でさえ小動物ぐらいなら殺せる程の殺傷力をもった造作の顔が、より一層の破壊力を増した結果、非核三原則にも触れかねません。僕はまだ日本に住んでいたい。残念ながら、この結婚生活は失敗だったと言わざるを得ず、二人は離婚という結末を迎えたのでした。
さて、まさかスリッパも自分の与り知らぬところでバツが一個付いていようとは想像だにしていない事でしょう。突然浮き出た十字の傷に、私はキリストの生まれ変わりではなかろうかと慌てふためき、ついうっかりヨーロッパを壊滅させたりしないとも限りません。どう考えてもキリストじゃなくてイノk危ない。そんな訳で、離婚が正式に成立した事をスリッパに伝えるため、アリキックの対処法を復習しながらコンビニへと赴きました。そして、レジで仰向けに寝そべっていたスリッパ相手に、バキを読んで習得した対処法を敢行したのです。即ち、逃げた。さようなら。
こんにちは。と申しますか、流石の僕も箸を入れ忘れた事をプロポーズだとは思っておらず、普通にゴミ袋からサルベージした割り箸を洗って飯食いました。また、もっと言えば、コンビニが夏の風物詩でない事も、最初から、だって、それを認めてしまったら。よって、ここは常夏の街なんかではなく、道理で、このハワイは12月とか超寒かった。僕は、結局の所、この夏を何も満喫などしていない事が、今更ながらに明らかとなったのです。何たることかや。残る夏は後少し、このままでは僕の思い出に残るのはスリッパとモハメドアリが戦っていた場面だけになってしまいます。そんな実際には起こってもいない出来事だけが刻み込まれた2005夏の思い出アルバムは、オートマチックに僕のトラウマリストに加えられ、これから夏が来る度、スリッパとモハメドアリと猪木とカシアスクレイにボコられる幻覚に苛まれ、3歩歩く度に奇声を発する新種の生物へと変貌を遂げてしまう事は避けようもありません。確かに、それは生物学上非常に興味深い知見ではございますが、僕の人生設計には左様な期間は組み込まれておらず、今すぐにでも夏を満喫する必要があるのです。どうすれば夏が満喫出来るのか。ギブミーサマー。
そんな所へ降って沸いたのが、このNIKKI SONICであります。曰く、NIKKI SONICとは真夏の日記フェスである。アイシー。詰まりはこういう事だ。夏の風物詩、その最後の一つは日記だったのです。花火、海、日記。なるほど、こうして並べて見れば全く違和感がありません。思えば、小学校の夏休みの宿題には必ず日記がありました。これはいよいよもって疑う余地もありません。遂に、僕にも夏がやって来た! 僕は健全な社会生活と幸福な未来を守る為、自らの全てを日記に費やしたのです。近頃の陽気には全く見向きもせず、完全体へと進化した引き篭もり並に物理的にも精神的にも閉じこもって日記を書くその様子は、発する臭気も相まって、死んだハマグリと呼ぶに相応しく、こうして僕は辛くも奇声を発する生物への進化を免れ、生ゴミとなったのでした。毎週月木が僕の日です。