材料の買出しに行くのを忘れて米はあるけどおかずがない。スーパーに行って何か買ってくるにしてもそこまで行く気力が無いほど空腹だしじゃあ近くのコンビニに行ってパンでも何でも買ってくればいいということにもなるがあと一週間を二千円強で過ごさなければいけない僕にとってローソンの物価はわんぱくすぎる、言うなればHP2000でゾーマに挑むようなものでHP2000もあれば一人でもゾーマぐらい倒せるよってゲームとドラクエの話を混同するな! とにかく米以外のおかずが何か無いものだろうか、どこか探せば前の住人が忘れてったマリネぐらいあって然るべきと家中のタンスや引き出しを大開放だがカロリーばかり大フィーバー。もう駄目だと諦めかけたそのとき引き出しの奥からけんちん汁の素が! いつもは食卓に少しの彩を添えるだけのけんちん汁だがこの事態に至っては充分メインディッ菜、いつか何かの役に立つと思い続けてきた健忘症がこんな形で報われるとはこれを奇跡と言わずして何だ! 見ろまるでけんちん汁から後光が差しており耳を澄ませばその神々しいお言葉が「吾輩はけんちん汁の素である」
「具はまだ無い」
歯医者に行った。
しかし何だろうか、皆は歯をいざ削られているとき何を考えているのだろうか。僕は麻酔をかけてられているとはいえ、もし何らかのアクシデントでドリルが僕の耳に入り壷焼きよろしく脳を引きずり出されてもoh yeahなように目と足を堅く閉じ、未然に痛みを紛らわすため親指の腹に強く爪を立て続けるという抵抗を諦めた処女みたいなスタイルで削られているがほとんどの場合何事も無く終わってしまう。拍子抜けする僕の体を引き起こし「お口ゆすいでくださいねー」
なんだ結局杞憂じゃないかと油断したら今度は麻酔無しで神経を引きちぎられ余りの痛みに意識がマイナス面。いくらある程度覚悟しているとはいえ麻酔無しの神経綱引きは視界が真っ白組だ、人のデリケートな部分にドリルつっこんでんだからその辺は空気読め「結構我慢してくれそうな顔してたよ?」斜め読みかよおま「お口ゆすいでくださいねー」
断っておくが別に神経をちぎられた痛みで怒ってるわけではない、医者が何の断りも無く人の神経をちぎるというそれってまさに無神経だよねって駄洒落かよてめぇこのチンカス納言「お口ゆすいでくださいねー」とにかく医者のこういう肝心な部分でアバウトなのが大嫌「お口ゆすいでくださいねー」そもそも患者に配慮が「お口ゆすいでくださいねー」ししおどしか俺はー!
電灯が壊れた。
厳密に言えば壊れたというよりは壊れかけといった方が良いだろう。時折急に薄暗くなったかと思えば元に戻る。チカチカと明滅する電灯はむしろ全く点かないものより鬱陶しさの面で大幅リードである。
そんなの電灯を付け替えればいいだけの話なのだろうけど、保育園の頃バレーボールを電灯に当てさらに落下した電灯を教室の真ん中で破裂させた思い出を持つ僕にとって電灯を外すことさえ中々難しい。それに今手元にバレーボールが無い。
かといってこのままでは目が悪くなるというより、二人の関係が悪くなる。例えるなら膣の中でペニスが大きくなったり小さくなったりしているようなものだ。女性は自分の魅力を疑い、男性は自分の勢力を疑うし、読者は僕の神経を疑う。良いことが一つも無いし手元にバレーボールも無い。
憂鬱な目で電灯を眺めているとどうもその明滅に規則性があるように思えてきた。まさか電灯が僕に何か伝えようとしているのか? 長く大事にされた物には魂が宿り九十九神となるという話を伝承で聞いたことはあるが、まさかこの電灯に魂が宿ったということだろうか? だとするならこの明滅は意味があるに違いない。そういえば今まで電灯に耳を貸したことなど無かった。教えてくれ電灯、今まで君の事無視し続けてきたけど、それは間違いだったと気づいたよ。お前の言葉を聞くことで、何か僕にできることがあるなら!
「……ア…
イ…シ
テ………
ヨ」
手元にミラーボールがある。
金が足りない。何をするにも金が足りない。全くもってこの世は金無しには何もさせようとはしない。何も持たないことが何よりも枷というのは一体どういう矛盾だろうか解せない、全くもって解せないなどと手元に残った小銭を弄繰り回す、ああ、ふとした弾みでこの小銭が倍いや倍と増えはしないだろうかと期待するも生きるための小銭は僕に無表情な光沢を向けるばかりで解せない、ああ! 死ねばいい、俺が死ねば枷が外れて俺が死ねば世界が閉じて世界が閉じれば皆も死にこのくそったれの世界にせめてもの一擲を食らわせてやれるが、ああ、そんな度胸がこんな小心者にあるはずもなくただただちゃらちゃら小銭は回り揺れやがて小銭を介し腹いせの自己表現、皆死ねばいい俺も皆死ねばいい、揺れる小銭はゆっくりと一つの意味に向かって並び始めやがて象形を一つ「鹿」と綴ってその下に、ああ、
金が足りない。